メンターという働き方は、特別な人だけのものではない

【コラム連動|50代後半からの働き方再設計室・第4回】
「上から目線でした」と言われた日から、始まりました。
前回は、小さく起業することについて書きました。
今回は、4つの選択肢——転職・再就職・起業・メンターのうち、いちばん誤解されやすく、いちばん見落とされている「メンター」についてお話しします。
「自分には無理だ」
そう思って、最初から候補から外している方が多い。
私は、それをもったいないと感じています。
ただ、今回は励ましだけを書くつもりはありません。
私自身の、恥ずかしい失敗から始めます。
「メンター」と聞くと、身構えてしまう
「メンター」と聞いて、どんな人を思い浮かべるでしょうか。
大きな会社を率いてきた人。
華やかな実績のある人。
人前で堂々と話せる人。
何かを教える資格を持っている人。
そういうイメージを持たれる方が多いと思います。
もちろん、そういう方もいます。
でも、経験が長いことは、そのままメンターの資質にはなりません。
それどころか、経験が邪魔をすることがあります。
これは、身をもって知りました。
「上から目線でした」という言葉に、私は大きなショックを受けました
メンターとして活動を始めたばかりの頃のことです。
ある企業から依頼を受け、起業したばかりの若者のメンタリングを担当しました。
私は、彼の力になりたいと思っていました。
これまでの経営経験から、
「そこは、こう考えたほうがいい」
「今のうちに、これをしておいたほうがいい」
「そのやり方では、後で苦労するかもしれない」
と、私なりによかれと思って、さまざまなアドバイスをしました。
セッション中、彼は私の話をうなずきながら聴いていました。
私は、その様子を見て、
「分かってくれている」
「少しは役に立てたのではないか」
と思っていました。
ところが、セッション終了後に寄せられた彼の所感は、私の想像とはまったく違うものでした。
「一方的だった」
「上から目線に感じた」
そこには、厳しい言葉が並んでいました。
それを読んだとき、私は大きなショックを受けました。
一生懸命に話を聴いてくれていると思っていた。
私の経験を、役に立つものとして受け取ってくれていると思っていた。
しかし、実際には正反対でした。
彼にとって、私の言葉はアドバイスではなく、決めつけや指示として聞こえていたのです。
おそらく彼は、セッションの途中から、私に心を閉ざしていたのでしょう。
しかし、そのことに私は気づけませんでした。
経験があるからこそ、答えを急いでしまう
振り返れば、私は長年、経営のトップとして仕事をしてきました。
経営者には、決断が求められます。
問題があれば原因を考え、打ち手を決め、人に指示を出す。
迷っている時間が長ければ、会社や社員に影響が出ることもあります。
そのため私は、相談を受けると、
「何が問題なのか」
「どうすれば解決できるのか」
を、すぐに考える習慣が身についていました。
それは、経営者としては必要な力だったと思います。
しかし、メンターとして人に関わるときには、その習慣が裏目に出ることがあります。
相手が何を感じているのか。
何に迷っているのか。
なぜ、その選択をしようとしているのか。
それを十分に聴く前に、自分の経験から答えを出してしまう。
そして、
「自分は経験してきたのだから、相手のためになることを伝えられる」
と、どこかで思っていたのだと思います。
しかし、自分にとっての正解が、相手にとっての正解とは限りません。
その境目を決めるのは、話している側の善意ではありません。
受け取る相手が、どう感じたかです。
問われるのは、知識よりも「在り方」だった
この経験をきっかけに、私は自分の人との関わり方を見直しました。
まず、信頼関係をつくること。
相手の話を、結論を急がずに聴くこと。
相手の言葉の背景にある気持ちまで、理解しようとすること。
自分の考えを伝える前に、
「この人は、今、何を必要としているのだろう」
と、いったん立ち止まること。
そして、自分の経験を話すときも、
「こうすべきです」
ではなく、
「私には、このような経験がありました。一つの参考として、どう感じますか」
と、相手に返すこと。
変える必要があったのは、話し方の技術だけではありませんでした。
私自身の在り方、態度、姿勢でした。
相手より上に立って教えるのではなく、同じ目線に立つ。
答えを与えるのではなく、相手が自分の答えを見つけるまで一緒に考える。
相手を動かそうとするのではなく、相手が自分で動き始める力を信じる。
私は、この苦い経験から、メンターとして最も大切なことを教えてもらいました。
今では、気づかせてくれた彼に感謝しています
当時は、厳しいコメントを受け止めるだけで精いっぱいでした。
正直に言えば、しばらく引きずりました。
しかし今振り返ると、あの経験がなかったら、セカンドキャリアとしての今の私はなかったと思います。
私はその後、傾聴や問いかけ、信頼関係づくりについて学び、自分のセッションを何度も振り返るようになりました。
今でも、つい答えを言いたくなる自分がいます。
経験があるからこそ、先が見えてしまうこともあります。
そんなときは、あの若者からもらった言葉を思い出します。
「一方的だった」
「上から目線に感じた」
あの言葉は、私にとって痛いものでした。
しかし同時に、メンターとしての原点になった言葉でもあります。
率直に伝えてくれた彼には、今では感謝しかありません。
自分の未熟さに気づかされた経験もまた、次の関わりを変える大切な財産になります。
だから、特別な人だけのものではない
ここまで読んで、「やはり難しそうだ」と感じた方がいるかもしれません。
でも、私がお伝えしたいのは逆のことです。
必要なのは、華やかな実績ではありませんでした。
必要だったのは、自分の経験をいったん脇に置けるかどうか。ただ、それだけでした。
そして、これは性格の問題ではありません。
私も、直せました。時間はかかりましたが。
長く働いてきた方には、必ず積み重ねてきたものがあります。
うまくいったこと。
失敗したこと。
人間関係で苦労したこと。
責任のある立場で、決めきれずに悩んだこと。
若い人を育ててきたこと。
その一つひとつが、いま同じ場所で立ち止まっている人にとっては、道しるべになります。
「私も、同じように悩みました」
「その気持ちは、よく分かります」
「私の場合は、こう考えて一歩進みました」
こういう一言が、相手にとっては大きな安心になる。
だから、完璧でなくていい。
立派すぎなくていい。
むしろ、うまくいかなかった経験を持っている人のほうが、相手の痛みが分かります。
メンターとは、上から教える人ではありません。
相手より少し先を歩いた経験をもとに、横に並ぶ人です。
メンターは、具体的に何をする仕事なのか
抽象的な話だけでは分かりにくいので、実際の形を挙げます。
私が見てきた範囲では、こういった関わり方があります。
- 中小企業の社外相談役として、経営者の話を月に一度聞く
- 若手管理職や新任リーダーの1on1相手になる
- 後継者・二代目の壁打ち相手として、判断を一緒に整理する
- 独立したばかりの人の、集客や値決めの相談に乗る
- 前職の取引先や後輩から、現場の困りごとについて相談を受ける
- 業界団体、NPO、地域の支援機関などで、相談役を務める
呼び名は、メンター、顧問、アドバイザー、相談役、社外役員などさまざまです。
共通しているのは、組織の中に入って手を動かすのではなく、判断する人のそばにいるという点です。
指示を出す立場ではない。
代わりに決める立場でもない。
その人が自分で決められるように、隣で整理する。
これが、メンターという働き方の実態です。
では、どう始めるか
前回、小さく起業する順番について書きました。
メンターも同じです。というより、4つの選択肢の中で、いちばん小さく試せるのがこの形です。
在庫も、店舗も、設備もいりません。
1.身近な一人から始める
かつての後輩、取引先の若手、知人の会社の二代目。
「最近どう?」と、一度話を聞いてみる。それだけで十分です。
2.答えを出さずに、3回聞いてみる
一度では分かりません。
3回続けてみると、自分が助言したくなる場面と、聴くべき場面の違いが、少しずつ見えてきます。
3.必ず、感想を聞く
「今日、何が一番役に立ちましたか」
「話しにくかったところは、ありませんでしたか」
聞きにくい問いです。でも、ここは飛ばさないでください。
私は、所感という形で厳しい言葉を受け取ったから、変わることができました。
もしあの時、何も返ってこなかったら、私は今も同じ失敗を繰り返していたと思います。
うなずきを、同意だと思わないこと。
これが、私の一番の教訓です。
4.小さく有料にしてみる
いつまでも無償で続けない。
月に一度、一時間。まずは、ささやかな金額から。
お金を払ってでも時間を取りたいと思ってもらえるか。
そこで初めて、仕事として成立するかが分かります。
お金と時間の、現実的な話
精神論だけでは生活は守れないので、現実にも触れておきます。
メンターや顧問という関わり方は、いきなり大きな収入になるものではありません。
月に一度、二度という関わり方が多く、一件あたりの金額もそれほど大きくない。
ですから、一件で生活費を賄おうとしないことです。
小さな関わりを、複数持つ。
再雇用や再就職を続けながら、その一部として関わる。
年金が始まるまでの期間と、始まってからの期間で、必要額を分けて考える。
そういう組み立て方が、現実的です。
そして、もう一つ。
守秘義務と距離感は、必ず意識してください。
相談を受けるということは、その人が誰にも言えないことを預かるということです。
ここが守れるかどうかは、実績よりも大事な条件だと思っています。
メンターは、他の選択肢と対立しません
転職するか、再就職するか、起業するか、メンターか。
こう並べると、どれか一つを選ばなければいけない気がしてきます。
でも、メンターという関わり方は、他の三つと両立します。
再就職しながら、月に一度、誰かの相談に乗る。
小さく起業した事業の柱の一つとして、顧問契約を持つ。
今の会社に在籍したまま、社内で若手の相談役を担う。
すぐに辞めなくていい。大きく始めなくていい。
いまの立場のまま、試せる選択肢です。
最後に
50代後半・60代になると、こんな思いが出てくることがあります。
自分には、何が残っているのだろう。
まだ誰かの役に立てるのだろうか。
これまでの経験に、意味はあったのだろうか。
経験は、自分の中にしまっておくだけでは、そこで止まります。
でも、誰かの力になる形で差し出したとき、その経験はもう一度、社会の中で動き始めます。
ただし、差し出し方は、学び直しが必要です。
私は、それを一人の若者から教わりました。
人生後半に必要なのは、もう一度どこかで勝つことではありません。
誰かの一歩を支えられる自分に、気づくこと。
そして、そのために、これまでのやり方を一度手放すこと。
その二つだと思っています。
まずは、自分がどの方向に近いかを整理してみませんか
50代後半からの働き方には、転職・再就職・小さな起業・メンターという、複数の選択肢があります。
最初から、一つに決める必要はありません。
とはいえ、ひとりで考えていると、同じところをぐるぐる回ってしまうものです。そんな時のために、二つの入口をご用意しています。
50代後半からの働き方 4つの選択肢診断
転職・再就職・起業・メンター。あなたに近い方向性を、約3分で整理できます。
※所要時間 約3分・無料
50代後半からの働き方再設計室(個別相談プログラム)
これまでの経験、今の不安、これから大切にしたいことを伺いながら、4つの選択肢を一緒に整理していく、全4回の個別相談プログラムです。
考えがまとまっていなくても大丈夫です。何を書けばいいか迷ったら、
「人生後半の働き方を整理したいです」
その一言だけで構いません。そこから、一緒に考えていきます。
とくにメンターという働き方は、ご自身では気づきにくい形です。
「人から、よく相談されてきたこと」を掘り起こすところ。
そして、これまでの立場のまま話すと、なぜ相手に届かないのか。
私が遠回りして学んだところから、一緒に整理していきましょう。
今日も明るく元気よく。
河村直人
株式会社シンライフワーク 代表


