「このままでいいのか」と感じたら、まず見るべき4つの選択肢

コラム連動|50代後半からの働き方再設計室・第5回
——選ぶ前に、同じ物差しで並べてみる
ここまで4回にわたって、50代後半からの働き方について書いてきました。
第1回は、転職
第2回は、再就職
第3回は、小さな起業
第4回は、メンター
一つずつ、丁寧にお伝えしてきたつもりです。
でも、ここまで読んでくださった方の多くが、いま同じところで止まっているのではないかと思っています。
「で、自分はどれなのか」
四つ並んでいることは、分かった。
どれにも上下がないことも、分かった。
けれど、自分がどれに近いのかは、分からない。
今回は、そこを扱います。
選ぶ話ではありません。見比べる話です。
私は、選択肢を並べたことがありませんでした
先に、自分の失敗から書きます。
四十二歳のとき、私は初めて起業しました。
当時の私は、
「これは儲かるぞ」
「自分には、これまでの経験がある」
「俺ならできる」
「気合と根性があれば、何とかなる」
と、かなり鼻高々になっていました。
ところが、実際には、そのマーケットのことを十分に理解していませんでした。
お客様が本当に何を求めているのか。
どこで収益が生まれるのか。
どれほどの資金が必要なのか。
事業が軌道に乗るまで、どのくらいの時間がかかるのか。
そうしたことを十分に確かめないまま、血気盛んに飛び込んでしまったのです。
そしてこのとき私は、転職を検討していません。
再就職も、誰かを支える関わり方も、頭にありませんでした。
比べていないのだから、選んでもいない。
ただ、目の前にあった一つに飛びついただけです。
結果は、大失敗でした。
減り続ける通帳残高。
募っていく、立ち上げメンバーの不信感。
家にも帰らず、家族を泣かせ、多くの人に迷惑をかけました。
起業前には「何かあったら言ってくださいね」「応援します」と言ってくれていた人たちも、いつの間にか、私の周りからいなくなっていました。
「経営者は孤独だ」
その意味を、初めて思い知りました。
不安と恐怖で、朝が来るのが怖い。
生きていることさえ、嫌になるほど追い込まれました。
私にとって、まさに人生のどん底でした。
いま振り返って思うのは、こういうことです。
失敗したこと自体より、何を確かめずに始めたのかを、自分で分かっていなかったことのほうが、後で効いてきました。
確かめていないから、うまくいかなくなったときに、どこを直せばいいのかが分からない。
気合と根性で押し切ろうとしたのは、ほかに道を見ていなかったからです。
四つ並べたうえで一つを選んだ人は、つまずいても戻る場所があります。
一つしか見ていなかった人には、それがありません。
いまの私が相談の場で使っている物差しは、
あのとき自分が飛ばしたものの、裏返しです。
比べる物差しが違うと、比べたことにならない
「四つは並べました」とおっしゃる方もいます。
でも、よく伺うと、それぞれ違う物差しで見ていることが少なくありません。
転職は、年収で見ている。
再就職は、体力で見ている。
起業は、憧れで見ている。
メンターは、自信のなさで見ている。
これでは、比べたことになりません。
長さと重さと温度を並べて、どれが一番かと考えているようなものです。
特に多いのが、この三つの物差しです。
一つ目は、年収だけ。
50代後半からの働き方では、金額の大小より、その収入が何年続くかのほうが効いてきます。
二つ目は、世間体。
役員だった方が再就職を、経営を担った方がメンターを、無意識に候補から外していることがあります。「格好がつかない」という理由で外した選択肢は、たいてい後で戻ってきます。
三つ目は、向き不向きの自己評価。
「自分には向いていない」——この判断は、やってみる前になされることがほとんどです。第4回に書いたとおり、私自身、メンターとして最初に受けた評価は「一方的だった」「上から目線に感じた」でした。向いていなかったのではありません。やり方を知らなかっただけでした。
私が、相談の場で使っている五つの物差し
四つを同じ土俵に載せるために、私はこの五つで見ています。
どれも、生活に直結する現実的なものです。
①収入は、いつまでに、いくら必要か
「たくさんあったほうがいい」では、判断材料になりません。
毎月いくら要るのか。年金が始まるまでの期間と、始まってからの期間で、必要額はどう変わるのか。ここを分けて出すだけで、選択肢はかなり絞られます。
私は、通帳の残高が減っていく感覚を知っています。あれは、判断力を確実に鈍らせます。数字は、始める前に出しておいてください。
②仕事を、自分で取りに行く必要があるか
ここが、四つを分ける一番大きな線です。
長く組織で力を発揮してきた方ほど、この差を軽く見ます。私も、そうでした。二度目の起業で集まった仲間は、全員が優秀でした。ただ、これまでのキャリアはすべて「動いている組織の中で力を発揮すること」だった。ゼロから仕事を取ってくることは、まったく別の能力です。
③今の会社を辞めずに、試せるか
試せる選択肢と、決めてから動くしかない選択肢があります。
この差は、思っているより大きい。詳しくは、後で書きます。
④使える時間と、体力
週に何日、一日に何時間なら、無理なく続けられるか。
五年後も同じペースで働いている自分が、想像できるか。
人生後半の働き方は、続かなければ意味がありません。
⑤家族が、知っているか
これは、私が必ず伺うことです。
家族には、いちばん話しにくい。心配をかけたくないからです。その気持ちは、痛いほど分かります。
私も、話していませんでした。守っているつもりでした。
けれど、当時小学生だった娘は、私にではなく、私の母にこう相談していたそうです。
「お父さん、うまくいっていないみたいなんだけど、このままスイミングスクールや塾に通っていていいのかな」
私は、何も知りませんでした。
やがて母から、こう言われました。
「家族を守るとか偉そうに言って、泣かせているじゃないか」
その話を聞いたとき、ハッとしました。
事業を何とかすることばかりを考え、家族がどのような気持ちで過ごしているのかを、私は見ようとしていなかったのです。
ここでようやく、私は腹を括りました。
お伝えしたいのは、こういうことです。
話していないつもりでも、家族は気づいています。
そして、話していないと、子どもは親ではない誰かに相談することになります。
いま全部を打ち明ける必要はありません。
ただ、「考えている」ということだけは、決める前に伝えておいてください。
それは弱音ではなく、いちばん現実的な準備です。
四つを、一枚に並べてみる
五つの物差しのうち、比べやすい部分を表にしました。
あくまで目安です。ご自身の状況に置き換えて見てください。
| 転職 | 再就職 | 小さな起業 | メンター | |
|---|---|---|---|---|
| 収入の立ち上がり | 早い | 早い (水準は下がりやすい) |
遅い・不安定 | 遅い・小さい |
| 自分で仕事を 取る必要 |
入社までは必要 入社後は不要 |
同左 | ずっと必要 | 必要 (多くは紹介から) |
| 辞めずに 試せるか |
難しい (決めてから動く) |
準備はできる | できる (在職中でも) |
できる (社内でも) |
| 形になるまでの 時間 |
数か月 | 数か月 | 一年以上を見る | 月に一度から 始められる |
| 主に 問われるもの |
経験と役割の適合 | 折り合いをつける 柔軟さ |
自分で決める力 集客 |
聴く力・信頼 守秘 |
※スマートフォンの方は、表を横にスクロールしてご覧ください。
どの道にも、可能性があります。
同時に、どの道にも、現実とリスクがあります。
そして、もう一つ。
四つのほかに、「今の会社に残りながら、準備する」という道があります。
これは五つ目の選択肢というより、四つすべての手前に置けるものです。
残ると決めることも、立派な判断です。ただ、何も考えないまま残ることとは、まったく違います。
この表で一番見ていただきたいのは、三行目です。
「決めてから動く道」と、「動きながら決められる道」
転職と再就職は、決めてから動く道です。
応募して、面接を受けて、退職の意思を伝える。ある地点から先は、後戻りしにくくなります。
一方、小さな起業とメンターは、動きながら決められる道です。
在職のまま、一人の相談に乗ってみることができる。休日に、一度だけ試してみることができる。
つまり、迷っている段階でできることは、後者に偏っているということです。
だから私は、方向が決まらない方に、こうお伝えしています。
まず、辞めずに試せるほうから、
小さく動いてみてください。
かつての後輩や、取引先の若手に、一度話を聞いてみる。
自分の経験が役に立ちそうな人を、一人だけ見つけてみる。
そこで得られるものは、二つあります。
一つは、判断材料です。
やってみると、「自分で仕事を取りに行く」ことが自分に向くかどうかが、頭で考えるより早く分かります。起業とメンターに関する迷いは、ここでかなり片づきます。
もう一つは、転職・再就職を選んだ場合にも効くということです。
「社外で人の相談に乗ってきた」という事実は、面接の場で強い。役割で語れる人は、この年齢では多くありません。
人生後半の一歩は、覚悟を決めて崖から飛び降りることではありません。
自分と家族の生活を守りながら、小さく試し、確かめ、育てていくものです。
私は、その順番を間違えました。
それでも決まらないのは、情報が足りないからではありません
ここまで読んで、それでも決まらない。
そういう方も、いらっしゃると思います。
そのとき、多くの方が情報を集めにいきます。
転職市場の動向、資格、定年後のマネープラン。今は、調べればいくらでも出てきます。
でも、たいていの場合、足りないのは情報ではありません。
判断の軸が、まだ言葉になっていない。
これだけです。
頭の中では何度も考えている。
でも、口に出したことは一度もない。
だから、同じところをぐるぐる回る。
これは、意志が弱いからではありません。
一人で考えるという方法に、そもそも限界があるだけです。
あのとき「応援します」と言ってくれた人たちは、いつの間にかいなくなっていました。
私に足りなかったのは、情報ではありませんでした。話せる相手でした。
人は、誰かに向かって話しながら、自分の本音に気づくことがあります。
「転職したい」と思っていたけれど、本当は今の役割に違和感があるだけだった。
「起業したい」と思っていたけれど、本当は自分の経験を誰かに伝える場が欲しかっただけだった。
どれも、一人で机に向かっているときには出てこなかった言葉です。
まずは、自分がどの方向に近いかを整理してみませんか
50代後半からの働き方には、転職・再就職・小さな起業・メンター、そして今の会社に残るという、複数の道があります。
最初から、一つに決める必要はありません。
けれど、並べないまま時間だけが過ぎるのは、もったいないと思うのです。
そんな時のために、二つの入口をご用意しています。
今回お伝えした「並べる作業」を、一緒に行うのが、全4回の個別相談プログラムです。
私自身、勢いと過信で起業し、家族や仲間を苦しめた経験があります。だからこの場では、転職や起業を安易に勧めることはしません。
これからやりたいことだけではなく、今の収入、家族との時間、健康、生活の見通しも含めて整理します。そのうえで、会社に残る、転職する、再就職する、小さく起業する、誰かを支える——その中から、今のあなたにとって現実的な方向を、一緒に探します。
50代後半からの働き方再設計室を見る全4回の個別相談プログラム
考えがまとまっていなくても大丈夫です。何を書けばいいか迷ったら、「人生後半の働き方を整理したいです」の一言だけで構いません。そこから、一緒に考えていきます。
必要なのは、誰かの成功例をそのまま真似することではありません。
自分の経験、価値観、暮らし、そして家族との関係も含めて、自分なりの働き方を組み立てることです。
四つを並べる作業は、一人でもできます。
ただ、五つ目の物差し——本当は何を大切にしているか——は、話してみないと言葉にならないことが多い。
私が四十二歳のときに飛ばしてしまった作業を、あなたには飛ばしてほしくないと思っています。
今日も明るく元気よく。
河村直人
株式会社シンライフワーク 代表


