【第2回】会社を立て直すとき、私は数字より先に何を見たか――33歳、四面楚歌の会社で学んだこと

    SERIES
    人は、正しさでは動かない。
    三度の立て直しの現場で、私が考えてきたこと
    EPISODE 02

    この記事を読んでいただきたい方

    • 赤字や業績不振の会社・事業を立て直そうとしている経営者
    • 社員同士の対立や組織内の温度差に悩んでいる経営者
    • 数字を追っているのに、なかなか組織が動かないと感じている経営者
    • 「まず何から手をつければいいのか」と悩んでいる経営者

    前回、33歳で初めて会社の経営を任されたときのことを書きました。

    突然の社長就任命令。

    そして、行ってみると会社は大赤字。

    今回は、そのとき私がどんな会社に入り、何から手をつけたのかを、もう少し具体的に振り返ってみたいと思います。

    今振り返ると、あの会社は単に「赤字の会社」ではありませんでした。

    人間関係。

    株主。

    フランチャイズ加盟者。

    地域のパートナー。

    そして、お金。

    いろいろな問題が絡み合っていました。

    当時の言葉で表現するなら、

    四面楚歌。

    そんな状況だったと思います。

    目次

    本当は、社長になりたくなかった

    33歳。

    ある日突然、

    「この会社の社長をやってほしい」

    と言われました。

    実は、私は最初、断りました。

    当時、私は別の仕事をしていました。

    自分なりに、

    「このビジネスは、これからもっと大きくなる」

    と思っていましたし、そこに手応えも感じていました。

    だから、その仕事を続けたかった。

    社長になることを目指していたわけでもありません。

    ところが、会社から示された選択肢はかなりはっきりしていました。

    その会社の経営を引き受けるか。

    それとも、会社を辞めるか。

    今なら、ずいぶん乱暴な話だなとも思います(笑)。

    でも当時は、まだ子どもも小さかった。

    私自身の人生もこれからでした。

    いろいろ考えた末、

    「こんな機会は、なかなかないかもしれない」

    と思い直しました。

    だったら、やってみよう。

    そうして私は、33歳で社長になりました。

    まさか、その先にあれほど大変な状況が待っているとは思っていませんでした。

    水と油のような二つの会社

    その会社は、ジョイントベンチャーでした。

    一方は、誰もが知るような超大手の通信会社。

    もう一方が、私のいたベンチャー企業。

    これが、まあ、見事なくらい違う会社でした。

    例えば働き方一つをとっても違う。

    一方は労働組合もしっかりしていて、残業を極力させない。

    定時になれば帰る。

    それに対して私たちのいたベンチャー企業は、

    「定時を過ぎてからが仕事だ」

    くらいの感覚がありました。

    今なら、どちらが正しいという話ではありません。

    ただ、

    会社の文化がまったく違った。

    その二つの会社から社員が集まり、一つの新しい会社、新しい事業をつくろうとしていたわけです。

    当然、仕事の進め方も違う。

    考え方も違う。

    スピード感も違う。

    何を当たり前とするかも違う。

    新しい会社を立ち上げただけでも大変なのに、その中で水と油のような文化がぶつかっていました。

    そこに33歳の私が、

    「今日から社長です」

    と入っていったわけです。

    周囲からすれば、

    「さて、お手並み拝見」

    くらいだったのではないでしょうか。

    赤字だけではなかった

    もちろん、業績も大変でした。

    大赤字。

    債務超過。

    そして大量の在庫も抱えていました。

    株主にも説明しなければならない。

    資金のことも考えなければならない。

    さらに、この会社はフランチャイズビジネスを行っていました。

    ですから、社内だけを見ていれば済む会社ではありません。

    フランチャイズの加盟者がいる。

    全国に地域のパートナーがいる。

    その方々も、このビジネスにお金と人生をかけている。

    つまり私は、

    社員。

    二つの親会社。

    株主。

    フランチャイズ加盟者。

    地域パートナー。

    いろいろな人たちの間に立つことになりました。

    どこから手をつければいいのか。

    正直、かなり悩みました。

    売上を上げなければいけない。

    お金も何とかしなければいけない。

    事業そのものも立て直さなければいけない。

    でも、いろいろ見ていくうちに感じたことがあります。

    このままでは、何をやっても動かない。

    まず、内側を整えなければいけない。

    そう思うようになりました。

    組織が弱ると、犯人探しが始まる

    これはその後の経営でも何度も感じたことです。

    組織は、うまくいっているときより、

    うまくいかなくなったときに、本当の姿が出ます。

    業績が悪くなる。

    疲れてくる。

    先が見えなくなる。

    すると、人は不安になります。

    そして不安が大きくなると、

    「あの人が悪い」

    「あの部署が悪い」

    「向こうの会社の人たちが悪い」

    と、犯人を探し始めることがあります。

    面白いもので、それまで対立していた人たちが、

    新しい方針に反対するという一点で、

    今度は一緒になったりすることさえあります。

    当時の会社にも、そういうところがありました。

    何かを変えようとする。

    すると反発が出る。

    新しいことを始めようとすると、

    「そんなことをやってもうまくいかない」

    という声が大きくなる。

    今なら、

    「抵抗勢力だ」

    と簡単に片づけてはいけないと思います。

    でも当時の私は33歳。

    そんなふうに冷静に見られていたかと言えば、怪しいものです。

    ただ、

    この状態のまま、戦略だけを語ってもダメだ。

    ということだけは感じていました。

    最初に整理したのは「人」だった

    そこで、会社の中を一つずつ整理していくことにしました。

    よく、

    「経営資源は、人・物・金」

    と言います。

    私たちがやったことを今振り返ると、

    まさに、

    人、物、金。

    この順番だったように思います。

    まず、人。

    ジョイントベンチャーでしたから、両社から多くの出向者が来ていました。

    一方で、この会社で採用されたプロパー社員もいました。

    会社を立て直し、その後も続けていくには、

    「この会社で働く人たちは誰なのか」

    を明確にしなければなりません。

    そこで、帰る場所のある出向者には、それぞれの会社へ戻っていただくことも進めました。

    もちろん簡単ではありません。

    でも、曖昧な状態を続けるわけにもいかなかった。

    そして、プロパー社員を中心に、

    この会社としてもう一度組織をつくっていこうとしました。

    水と油だった相手が、力を貸してくれた

    このとき、一つ印象に残っていることがあります。

    私が社長に就任したのと同じタイミングで、もう一方の大手企業側からも役員が交代しました。

    副社長と取締役として、新しい方々が来られました。

    私は、その人たちに自分の考えを伝えました。

    会社はこんな状態になっている。

    もう、

    「どちらの会社が正しい」

    「どちらのやり方がいい」

    と言って争っている場合ではない。

    この会社を何とかすることを、一緒にやりませんか。

    そういう話をしました。

    ありがたいことに、共感してくれました。

    そこから少しずつ、一緒に動いてくれるようになりました。

    象徴的だったのが、在庫の問題です。

    会社には大量の在庫がありました。

    この在庫を何とかしなければいけない。

    倉庫を整理し、処理していく。

    あちらこちらに頭を下げながら進めました。

    そのとき、もともとは「水と油」だった大手企業側の人たちが、力を貸してくれたのです。

    考えてみれば不思議です。

    昨日まで、

    「相手側の人」

    だった人が、

    「一緒に会社を何とかする人」

    へ変わっていった。

    これも、人と組織が動き始める一つの瞬間だったのかもしれません。

    次は「物」。そして「金」

    人の整理を進めながら、

    大量の在庫、倉庫といった「物」の問題にも手をつけました。

    そして当然、

    「金」の問題があります。

    債務超過です。

    資本の問題を何とかしなければいけない。

    株主の皆さんのところへ行きました。

    頭を下げました。

    お願いもしました。

    いろいろな工面をしていただきました。

    33歳ですから、

    株主の方々から見れば、

    「若い社長が突然やってきた」

    ということだったと思います。

    それでも、

    会社を何とかしたい。

    その思いを伝えながら、一つずつお願いしていきました。

    華々しい経営改革ではありません。

    本当に泥臭い仕事です。

    でも、

    こういうことを一つずつ「ちゃんとやる」しかなかった。

    当時の私は、そう思っていました。

    今振り返っても、

    「ちゃんとやる」

    という言葉は、自分の経営の中でかなり大事な言葉だったように思います。

    社内が落ち着いても、事業は立て直っていなかった

    こうして社内は、少しずつ落ち着いていきました。

    でも、会社がそれで立ち直ったわけではありません。

    肝心のフランチャイズビジネス自体が、うまくいっていなかったからです。

    加盟者の皆さんからすれば、

    「本部の中がどうなっているか」

    なんて関係ありません。

    自分たちの商売が成り立つかどうか。

    そこがすべてです。

    当然、不満もたまっています。

    私も各地へ出向きました。

    そこで、ずいぶん厳しい言葉をいただきました。

    中でも今でも覚えている言葉があります。

    ある加盟店オーナーから言われました。

    「お前たちはいいよな。」

    「サラリーマンだから、事業がうまくいかなくても給料をもらえる。」

    「俺たちは違う。この商売がダメになったら破産するんだ。」

    「どうしてくれるんだ。」

    33歳の私には、かなりきつい言葉でした。

    正直に言います。

    腹も立ちました。

    心の中では、

    「でも、この事業を選んだのは自分じゃないか」

    と叫びたい気持ちもありました。

    でも、もちろんそんなことは口には出せません。

    そして少し時間を置いて考えると、

    「この人の言っていることも、本音なんだろうな」

    と思いました。

    私たち本部にも、至らないところがあった。

    期待させて加盟してもらった責任もある。

    彼らにとってこれは、

    単なる「事業」ではありません。

    家族の生活がかかっている。

    自分の人生がかかっている。

    そこを、私は初めて本当の意味で感じたのかもしれません。

    全国を回って、一人ずつ話を聞いた

    そこから全国を回りました。

    加盟店オーナー。

    地域パートナー。

    一人ひとりの声を聞いていきました。

    もちろん、

    「話を聞けばすべて解決する」

    などというきれいな話ではありません。

    厳しい意見もあります。

    不満もあります。

    時には、聞きたくないこともあります。

    それでも、

    どこに問題があるのか。

    何を変えればいいのか。

    こちらは何を約束できるのか。

    逆に、何は約束できないのか。

    一つずつ聞きながら、整理していきました。

    そのときは、

    「傾聴」

    なんて格好のいい言葉を使っていたわけではありません。

    ただ、

    聞かなければ始まらなかった。

    のだと思います。

    数字の向こう側にいたのは、結局「人」だった

    会社に入ったとき、

    私が最初に見たのは大赤字でした。

    何とか数字を変えなければならない。

    その思いで経営を始めました。

    でも、数字を変えようとすればするほど、

    その向こう側にいる人を見ることになりました。

    社員。

    役員。

    株主。

    加盟店オーナー。

    地域パートナー。

    お客様。

    それぞれに立場があります。

    それぞれに事情があります。

    それぞれに守りたいものがあります。

    そして、

    それまでの経緯があります。

    だから、

    経営者が正しい答えを持ってきて、

    「これをやれば会社は良くなる」

    と言っただけでは、人は動かない。

    今回のシリーズを、

    「人は、正しさでは動かない」

    とした理由の原点も、

    もしかすると、この33歳の経験にあったのかもしれません。

    会社を立て直すとき、最初に戻すもの

    結果として、その会社はV字回復しました。

    でも今振り返ると、

    最初に戻さなければいけなかったものは、

    売上でも、

    利益でも、

    制度でもなかったように思います。

    信頼関係だった。

    誰と誰が同じ方向を向くのか。

    この人の話なら、もう一度聞いてみようと思えるか。

    一緒に会社を何とかしようと思えるか。

    本部を、もう一度信じてみようと思えるか。

    そこが少しずつ戻ることで、

    ようやく、

    人が動き始める。

    仕事が動き始める。

    そして結果として、数字が動く。

    33歳の私は、そんな順番を理論として知っていたわけではありません。

    ただ、目の前の問題に必死に向き合っていたら、

    結果としてそうなっていた。

    今だから、言葉にできます。

    数字を変えたければ、数字を生み出している人と、その人との関係を見る。

    会社を立て直すとき、

    私はそこで初めて、このことを教えてもらったのだと思います。

    次回は――

    「組織が弱ると、なぜ『誰かのせい』が増えるのか」

    会社がうまくいかなくなると、人は不安になります。

    そして、その不安が、

    対立。
    犯人探し。
    新しいことへの反発。
    「どうせ無理だ」という諦め。

    へ変わっていくことがあります。

    33歳のとき、私はその現象を目の前で経験しました。

    次回は、

    反発する人を、単純に「抵抗勢力」と見ていいのか。

    今の私だから感じることも含めて、振り返ってみたいと思います。

    この連載が、いま人や組織について悩んでいる経営者の方にとって、ご自身の会社を少し立ち止まって考える時間になれば嬉しく思います。

    経営者の方へ

    人や組織の問題には、会社ごとに違う背景があります。

    「社員が思うように動かない」
    「幹部に思いが伝わらない」
    「組織の中で対立が起きている」

    同じように見える悩みでも、その奥にある原因は一社一社違います。

    私は、経営者の話を聴きながら、一緒に状況を整理し、次の一歩を考える仕事をしています。

    もし今、一度誰かと整理してみたいと思われていることがあれば、お話をお聞かせください。

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    お気軽にご相談ください。

    ※ 無理な提案や営業は一切いたしません。

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