第10弾|「任せた」と言いながら、私は待てなかった。 ——進捗確認のつもりで、社員の主体性を奪っていた

「どうなっている?」
と、腕組みをして、社員に声をかけました。
任せた仕事の報告が、三日経っても上がってこない。
私の頭の中では、とっくに終わっているはずの仕事でした。
その社員は、戸惑いながら「今、確認中です……」と言いかけました。しかしそれは、私から見れば言い訳としか聞こえませんでした。
私はその先を待たずに、
「まだできていないのか、いつになったら終わるんだ」と重ねました。
進捗確認のつもりでした。
遅れている仕事を前に進めるために、
間違った方向へ行かせないために、
失敗させないために。
そう思い、必要な確認をしているつもりでした。
しかし、社員から見れば、あれは確認ではなかったと思います。
叱責です。
私は、仕事を任せたつもりになりながら、社員が自分のペースで考え、進める時間を待てませんでした。
私の求めるスピードが、いつのまにか基準になっていた
当時の私は、かなりせっかちでした。
決めたら、すぐ動きたい。動いたら、すぐ成果を見たい。問題が見えたら、すぐ直したい。
経営者として、そのスピード感が役に立った場面はあります。
会社を立ち上げた時。
危機を乗り越える時。
新しい事業を始める時。
そんな場面では、決断と行動の速さが会社を前に進めることは、確かにあります。
問題は、そのスピードを社員にもそのまま求めていたことです。
私が一日で考えたことは、社員も一日で理解できる。
私がすぐ動けるなら、社員もすぐ動ける。
私の中で答えが見えているなら、社員にも見えている。
そう思い込んでいました。
しかし社員には、社員の仕事がありますし、考えるために集める情報も必要です。関係者と調整する時間も必要です。何よりも、経験も得意分野も違います。
そうした違いを見ずに、私は自分の速度だけを物差しにしていました。
そして想定より遅いと、「動いていない」「本気ではない」「主体性がない」と判断していたのです。
行動計画をつくらず、行動だけを急がせていた
今振り返ると、任せる前にやるべきことがありました。
- 何を目指すのか
- いつまでに、どの状態をつくるのか
- どのような手順で進めるのか
- 途中の確認はいつ行うのか
- どこまで本人が判断してよいのか
- どんな場合に相談してほしいのか
こうした行動計画を、社員と一緒につくるべきでした。そして、お互いが合意したうえで進めるべきでした。
ところが、当時の私は、「これをやってくれ」「すぐに動いてくれ」「早く結果を出してくれ」と、行動することばかり急がせていました。
目標や期限は言っていたかもしれません。しかし、そこへ向かう道筋も、途中で確認するポイントも共有していなかった。
計画を一緒につくらないまま、途中経過が見えないことに苛立つ。社員からすれば、理不尽だったはずです。
「どうなっている?」は、質問ではなく圧だった
言葉だけを見れば、あれは質問です。
しかし、声の強さ、表情、言葉の間、腕を組んで待つ姿勢。そこに私の苛立ちが乗っていました。
社員には、こう聞こえていたと思います。
「なぜ、まだできていないんだ」
「何をしていたんだ」
「期待に応えられていないぞ」
そう受け取れば、人は考えるより先に焦ります。早く何か答えなければいけない。怒られないように説明しなければいけない。できていない理由を探さなければいけない。
そこに冷静な対話は生まれません。
課題を整理することもできないですし、本当は何に困っているのかも言えない。であれば、必要な支援を求めることもできないのも当然です。
私の進捗確認は、仕事を前に進めるどころか、社員を焦らせていただけだったと思います。
失敗させないつもりで、判断の機会を奪っていた
私は、社員に失敗してほしくありませんでした。
無駄な時間を使わせたくない。お客様や会社に迷惑をかけさせたくない。
そう考え、細かく確認していました。
また、違うと思えば、すぐ軌道修正する。危ないと思えば、途中で指示を変える。
私としては、状況に合わせて柔軟に判断しているつもりでした。
とはいえ、現場から見れば、指示があちこちに動いているだけです。
昨日進めていたものが、今日は止まる。今日始めたものが、明日には変わる。社員が考えて動き出す前に、次の指示が来る。
これを繰り返せば、社員は学習します。
「どうせ変わる」
「先に確認してから動こう」
「社長の指示が出るまで待とう」
「余計なことはしない方がいい」
それは怠慢ではありません。私の関わり方に対する、極めて合理的な反応でした。
私は「なぜ、自分から動かないんだ」と思っていました。しかし、社員が動かなくなったのではなく、私が動けなくしていたのです。
任せるとは、仕事を渡すことではなかった
以前の私は、仕事を渡せば任せたことになると思っていました。「これをやってくれ」「後は頼んだ」。そう伝えれば権限委譲ができている、と。
しかし、任せるとは仕事を渡すことではありません。
- 目的を共有する
- 完成の状態をそろえる
- 行動計画を一緒につくる
- 任せる範囲を明確にする
- 相談する条件を決める
- 確認のタイミングを合意する
- そのうえで、相手の考え方と進め方を尊重する
そこまでして、はじめて「任せた」と言えます。
計画も確認のルールも決めずに仕事を渡し、自分が不安になった時だけ突然「どうなっている?」と問い詰める。
あれは、任せていたのではありません。社員を、自分の不安に付き合わせていただけでした。
進捗確認は、詰問ではなく「同じ地図を見る時間」
進捗確認そのものが悪いわけではありません。会社の仕事ですから、進んでいるかを確認する必要はあります。問題があれば早く気づかなければいけないし、助けが必要なら支援しなければいけません。
大切なのは、目的です。
社員を監視するためなのか。遅れを責めるためなのか。社長自身の不安を解消するためなのか。それとも、今どこまで進んでいるかを一緒に確認し、障害を見つけ、次の一手を考えるためなのか。
同じ「どうなっている?」でも、目的と伝え方によって、社員が受け取るものはまるで違います。
本来、私が聞くべきだったのは、こういうことでした。
- 「今、どこまで進んでいる?」
- 「予定と比べて、どこに違いがある?」
- 「進めるうえで困っていることは?」
- 「サポートしてもらいたいことはある?」
- 「次は、いつまでに何を進める?」
これなら、責めるのではなく、状況を一緒に見ることができます。
進捗確認は、詰問ではありません。社員と経営者が、同じ地図を見る時間です。
遅れの原因は、社員ではなく計画の曖昧さにあった
進捗が遅い時、私はすぐに本人の問題だと考えていました。行動が遅い。意識が低い。優先順位がわかっていない。責任感が足りない。
でも、本当に見るべきものは他にありました。
そもそも期限に無理はなかったか。仕事の目的は伝わっていたか。完成の基準は明確だったか。必要な情報や権限は渡していたか。途中の確認時期を決めていたか。他の仕事との優先順位は整理されていたか。
計画が曖昧なまま進めていたのなら、遅れが起きるのは当然です。にもかかわらず社員だけを問い詰めれば、成長どころか萎縮します。
遅れた時に必要なのは、犯人探しではありません。計画のどこに無理や詰まりがあったのかを、一緒に見つけることです。
私がコントロールすべきだったのは、自分の焦りだった
私は、社員を早く動かそうとしていました。しかし、本当にコントロールしなければならなかったのは、社員ではありません。
自分の焦りです。
すぐに結果を求める自分。進捗が見えないと不安になる自分。想定と違うと苛立つ自分。失敗を避けるために先回りする自分。待つことを無駄だと感じる自分。
社員を急かす前に、自分の焦りに気づく必要がありました。
「今、私は仕事を前に進めるために確認しているのか」
「それとも、自分の不安を解消するために、相手を急かしているのか」
この違いは、とても大きい。
人を育てたいなら、経営者はまず自分の感情をコントロールしなければなりません。社員より速く考えられることと、社員を育てられることは、まったく別の能力です。
待つことは、放置することではない
こう書くと、「では口を出さずに放っておけばいいのか」と思われるかもしれません。
そうではありません。待つことと、放置することは違います。
放置とは、目的も計画も確認方法も共有せず、相手だけに背負わせること。
待つとは、目的と計画を共有し、確認のタイミングを決めたうえで、相手が考え、行動する時間を尊重すること。
必要な時には相談に乗る。障害があれば一緒に取り除く。しかし、自分の不安だけで、途中から仕事を奪わない。
任せるとは、何もしないことではありません。相手が自分で前に進める環境をつくり、その成長を待つことです。
任せる前に、合意しておきたい5つのこと
同じ失敗を繰り返さないために必要なのは、気合いや我慢ではありません。仕組みです。
仕事を任せる時には、少なくとも次の5つを共有します。
1. 目的
何のためにこの仕事を行うのか。誰に、どのような価値を届けるのか。
2. 完成の状態
いつまでに、どのような状態になれば完了なのか。
3. 行動計画
どの順番で何を進めるのか。途中の節目はどこか。
4. 判断できる範囲
本人が決めてよいこと。相談が必要なこと。
5. 進捗確認のタイミング
毎週なのか。三日後なのか。重要な節目ごとなのか。
ここを最初に合意しておけば、社長が不安になるたびに突然問い詰める必要はなくなります。社員も、いつ何を報告すればよいのかがわかる。
任せるとは、信じることだけではありません。安心して任せられる約束を、先につくることです。
今、あの頃の自分に言うなら
もし当時の自分に一言だけ伝えられるなら、こう言います。
「急かす前に、計画を一緒につくれ」
自分のスピードだけを基準にするな。
進捗が見えないからといって、相手を責めるな。
失敗させたくないという理由で、判断を奪うな。
方向を変えるなら、理由を説明しろ。
そして、「どうなっている?」と聞く前に、自分に問え。
「私は、仕事を前に進めたいのか」
「それとも、自分の焦りを相手にぶつけているだけなのか」
社員の報告が遅い。進捗が見えない。自分で判断して動かない。そんな時、社員の意識や能力を疑いたくなります。
でも、社員が報告しないのではなく、報告すると責められると感じさせている。社員が判断しないのではなく、どうせ途中で変えられると学習させている。そういうことが、確かにあります。
あの頃の私は、社員を動かそうとしていました。本当に整えなければならなかったのは、社員ではなく、自分自身でした。
社員に任せても、結局自分が抱えてしまう経営者の方へ
社員に任せたのに、進捗が気になる。
報告が遅いと、苛立ってしまう。
失敗が怖くて、途中で口を出してしまう。
指示を何度も変えてしまう。
結果として、社員が自分で動かなくなっている。
その背景には、社員の能力だけでなく、仕事の任せ方、計画のつくり方、進捗確認の方法、そして経営者自身の焦りが関係していることがあります。
私・河村直人との個別相談では、あなたの会社で今起きている「任せても動かない理由」を一緒に整理します。
答えを押しつけるのではなく、何が社員の動きを止めているのか。経営者自身は何を手放し、何を整える必要があるのか。現在の状況を、丁寧に言葉にしていきます。
社員が自分で考え、社長が進捗を追いかけ続けなくても動く組織へ。
まずは一度、現在の状況をお聞かせください。
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執筆者:河村直人
組織開発コンサルタント/エグゼクティブコーチ。自らの経営における失敗と再起の経験をもとに、中小企業の経営者が「一人で抱える組織」から「自ら考え動く組織」へ変わるための支援を行っている。


